医学部の地域枠について

医療

沖縄の勤務医です。

 

医学部には「地域枠」と呼ばれる入学制度があります。これは医師偏在を解消することを目的とした制度ですが、多くの大学では地域枠に合格した学生に授業料免除や奨学金貸与などの制度を設けています。

このような経緯もあり、読者の皆さんの中には今後医学部地域枠の受験を予定している方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

はじめに述べておきますが、私は地域枠の受験をオススメしません。

地域枠には多くの問題点が存在しているからというのがその理由です。

 

今回は、医者の視点から医学部の地域枠制度を考えてみたいと思います。

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琉球大学医学部の地域枠制度について

私の母校、琉球大学医学部医学科にも地域枠入試があります。

通常、医学部の入試は、田舎の大学といえど全国から受験生が集まるため、理系の中では難関です。

しかし、地域枠はその県や地域の学生のみを対象とすることが多いことや、その地域での一定期間の就業が義務づけられていることからか、一般入試で合格できるような学力の高い学生からは敬遠される傾向にあり、合格難易度が低いことが多いです。

「地域医療に従事する医師の確保」という目的や理念は素晴らしいですが、実際には多くの問題点を抱えています。

地域枠の問題点

選択できる科が限られる

まず第一に、「将来選択できる科が制限される可能性が挙げられます。

地域枠の目的は、医師の不足している地域の医師確保なので、内科や外科、産婦人科など地域医療に必須の科に進む医師の養成を前提としています。

しかし実際のところ、医学生が医学部に入って色々学ぶ中で希望する科が変わっていくということはよくあることです。

例えば、入学時は小児科志望だったけど、手術を見学して外科に興味を持つ人や、産婦人科志望だったけど、皮膚科に変更する人など。

私の周りでは、すんなり志望の科に進んだ人のほうがまれかもしれません。

普通入試で入った学生の場合、いつ志望が変わっても、どこの科に進もうとその人の自由ですが、地域枠の場合は上記の理由から、志望する科によっては県や大学から待ったがかかる可能性があります。

研修病院が限られる

第二の問題点は、「研修できる病院が限られる」ことです。

琉球大学の地域枠の募集要項を見てみると、「大学卒業後は,沖縄県地域枠キャリア形成プログラムのもとで原則として琉球大学病院にて臨床研修医として勤務し〜」とあります。

さらっと書いてありますが、これはなかなかの制限です。

通常、医学生は6年時に自分の研修先の病院を決定します。

全国には約1000施設もの臨床研修病院がありますが、制度上、医学生は住んでいる地域や通っている大学に関係なく、自分が希望する病院の採用試験を受けることができます。

もちろん、人気病院の倍率は高く難関ですが、基本的に受験に制限はありません。

研修病院にはハードな病院から、比較的忙しくない病院まで、様々です。病院や務めるスタッフの雰囲気も病院によってまったく異なります。

同級生が就職活動の話題で盛り上がる中、地域枠の学生は琉球大学への就職しか道が残されていないとなると、モチベーションの低下に繋がりかねません。

地域枠離脱について

厚生労働省が47都道府県に対して行った調査によると、平成20年以降、地域枠の離脱者はプログラム全体の9700人中450人で約4.3%となっています。

平成22年の離脱者が最も多く12%、それ以降は減少傾向にあり、平成30年には1%まで減少しています。

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000665193.pdf

離脱の理由としては、「希望する進路の不一致が」半数以上をしめており、上述した地域枠の問題点である「将来選択できる科が制限する可能性」を表した結果となっています。

地域枠を離脱した場合、多くのプログラムではそれまでにかかった学費や奨学金の返済義務が生じます。

しかし、返済さえすれば良いかというと、問題はそう簡単ではありません。

厚生労働省も、地域枠の離脱に関しては問題視しており、「地域枠離脱者は、入試の時点で確実に当該都道府県内で医師になるはずだった者の医師になる機会を奪うという道義的責任が残る。」というコメントを出しています。

入学時からずっと地域医療への熱い情熱を保てる学生なら良いのですが、一旦その制度に疑問を感じてしまった場合、「進むも地獄、退くも地獄」となってしまう可能性があるのです。

まとめ

今回は地域枠の問題点についてまとめてみました。

・選択できる科が限られる。

・初期研修病院が限定される。

・離脱は難しい。

「生殺与奪の権を他人に握らせるな」

鬼滅の刃で語られる冨岡義勇の有名なセリフですが、

地域枠は生殺与奪の権を県や大学に握られる可能性があります。

優秀な学生さんは、ぜひ一般入試を受けて入学されることをオススメします。

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